フォールディング
シェルター

FEATURES 特集

Folding Shelter

Folding Shelter

Folding Shelter

04

前例のない製品開発への挑戦。
「フォールディングシェルター」

PROJECT
MEMBER

この記事に登場する人物

営業本部 参与

村田 省一

取締役 設計部長

岩満 恭大

スポーツやレジャーを中心に、河川敷はたくさんの人が楽しめる空間として活用が推進され(河川空間のオープン化)、利用者も増えています。河川敷をより快適に過ごせる場所にするために欠かせないのが、ひと休みできるベンチや日除けとなるシェルターといった休養施設の整備です。

河川敷にそうした施設を設置するには、撤去可能もしくは1m以下の高さに収められる構造(可倒式)にすることが法律で義務付けられています。河川の増水や氾濫などの災害時に、被害を最小限に抑えるためです。しかし、台風や豪雨が迫る中でクレーンやトラックを使用した大掛かりな転倒・撤去作業を行うのは、河川敷管理者にとって非常に大きな負担となっていたほか、安全面の確保も大きな課題となっていました。

中村製作所が独自に開発したフォールディングシェルターは、転倒作業の負担を減らし、安心して設置できる休養施設です。重機を使用せず備え付けの器具を使うだけで、およそ10分程度で簡単に折りたたむことができます。ですが、その完成までの道のりは決して楽なものではありませんでした。どのような背景からこの製品が生まれたのか、どうやって前例のない製品開発を成し遂げることができたのか。キーパーソンとなった営業部門の村田と設計部門の岩満の二人が、そのストーリーを語ります。

社会課題の解決のため、
今までにない発想で製品開発に挑む

村田

プロジェクトの発端は、静岡県の自治体様からお声かけをいただいたことでした。その地域にある広い河川敷は、スポーツやレジャーなどでの利用者が多く、環境整備のために大規模に日除け(シェルター)を設置しようという計画があったんですね。自治体様からの要望は「もっと簡単に折りたためるものを」ということでした。そこでまずは設計部門の担当者に相談したんです。

岩満

「簡単に折りたたむ」と言っても、屋根は一定の強度を保つために100kgを超える重量があります。それはもちろん人の手でパタンと倒せればベストですが、そんな重さのものを動かすなんてとても不可能。だから当初は「絶対に無理だよ」と(笑)。担当者を通じて村田さんに率直に伝えさせてもらいました。

村田

富士川河川敷

即答でNOでしたね(笑)。でもね、私も設計側の意見は理解しながらも、ここはチャレンジしなきゃいけないんじゃないかと思ったんです。というのは、河川敷の快適性と安全性の両立、それって社会課題の解決につながるじゃないですか。ビジネスとしてだけではなく、暮らしのインフラづくりを担う企業の社会的な責任として重要だと直感したんですよね。

撤去命令が出るときって、増水による氾濫などが予見される危険な状況で、時間の余裕もない場合が多い。簡単に折りたためるシェルターの開発は、人々の安心・安全に直接的に貢献できる。今後、河川敷の活用が推進されていく流れにおいて、避けては通れない課題だと捉えました。

さらに営業の立場から言えば、この課題を解決できればナカムラ独自の製品が生まれる。河川敷はニッチな市場ですが、そこで唯一無二のポジションを確立できる、と。そこで設計トップの岩満さんに直接相談することにしました。

岩満

村田さんの熱意を受けて、私も改めて検討しました。それでも、当初はかなり迷っていましたね。他社も含めて前例のない製品をゼロから開発するとなると、膨大な時間がかかる。普段の仕事に加えて新製品の開発となると、限られたリソースの中ではどうしても守りに入っちゃうんです。

村田

ただ幸運だったのが、今回のプロジェクトには時間の余裕はあったということ。だから「時間かけていいからやってよ!」って頼み込んで、あとはもう押し切って(笑)。

岩満

これまでにないテーマだし、うまくいけば大きな資産になる。最終的には私もしっかり納得し、設計部門としても価値のある挑戦だと捉えて、開発をスタートしました。

アイデアと試行錯誤で、
壁を乗り越える

岩満

こうしてプロジェクトが始まったものの、やはり高い壁の連続でした。新製品の開発って、まずは課題解決の糸口となるアイデアが浮かんでこないとブレイクスルーを起こせない。だからもう、何をしてるときでもそのことが頭から離れなくて。私が中心となってアイデアを練っていたのですが、この頃が一番しんどかったです。

村田

でも、どこかでアイデアが降りてきたんですよね?

岩満

そうですね。ある日、ヤジロベエのように重りと支点のバランスによって複雑な姿勢を保っているアート作品を見ていたら、ふと思ったんです。屋根が重たくても、それを支える基礎(地面に接している部分)の重量や、柱の長さとのバランスさえ取れていれば、テコの原理で人の手でも簡単に動かすことができるんじゃないか?と。「バランス」がキーなんじゃないかと閃いたんです。

そこから構造を検討すると、屋根を200kgとして、単純計算で基礎部分の重量を600kgにすれば実現できるかも、というのが見えてきた。基礎の600kgって相当な重量ですけど、そこはベンチにしてしまえば、重さも稼げるし利用者も休憩できる。

これまでの河川敷タイプは吊り上げ用のフックを屋根に装備、脚部は脱着式。という仕様が多かった。

ふと、頭に浮かんだモビールのバランス

村田

それで図面をつくって自治体様に説明して、採用していただきました。他社もいろいろな提案はしていましたが、従来の撤去作業の域を出ないものでしたから、ナカムラ独自の提案ができましたね。

岩満

ですが、設計としては図面化したあとも一筋縄ではいきませんでした。実際に図面にすると「あれ、全然1m以下に収まらないぞ…?」とか。次々に新しい課題が出てきて、それをどう解決するか頭を悩ませる日々でした。中でも難題だったのが安全面。作業中に強い風が吹いて屋根が煽られると非常に危険なので、安全性をどう担保するかは試行錯誤の連続でした。

村田

自治体様からも安全性の確保は必須だと、強く要望をいただいていましたからね。

岩満

あそこで、屋根をたたむ可動部分に「ダンパー」という部品を付けたんです。身近なところでいうと、車のトランクを開けるときに左右でトランクを支えている棒状の部品のことですね。手で楽にトランクを持ち上げることができるのは、ダンパーが支えているからなんです。シェルターにダンパーを付けることで風が吹いても煽られず、手でゆっくり動かせるようにサポートしてくれます。

こだわったのは、ダンパーの強さの調整です。強くしすぎると手では動かせないくらい固くなってしまう。一方で弱いと手で支えられなくなるし、風が吹いたときにも煽られてしまう。かなり精度の高い調整が必要で、10種類以上の強さを試しました。プロトタイプを何度もつくり、自治体の方々にも工場まで見に来ていただいて試してもらったり。

村田

それで自治体様からも「これならいける」とお言葉をいただいて、ついに完成となりました。1年ほどかかりましたね。取手市、富士市の河川敷で導入いただいたのを皮切りに、今ではさまざまな自治体様に取り入れていただけるようになりました。

総ての快適環境の創造に貢献するために。

何度も書き直した図面、何度も試した機構

村田

河川敷の施設は決して大きな市場ではないですが、だからこそ、ここまでできる企業はいない。岩満さんをはじめ設計部門の皆さんには、快適性と安全性の両立に寄与し、河川敷というジャンルの中でしっかりとトップに立てるような製品をつくってくれたことを、とても感謝しています。できないと思ったことでも、何とかして答えを出してくれる、設計部門のプロフェッショナルとしての底力を見せていただきました。

岩満

ありがとうございます。そもそもナカムラは可動性のある製品づくりの経験が決して多くはなかった。それゆえに過去の常識に囚われない発想がもてたかもしれませんね。今回のプロジェクトを通じて得た知見はナカムラにとって貴重な財産になったなと感じています。今後は我々が得意とする遊具などの領域でも、このノウハウを活かせるだろうと期待しています。

村田

また無理難題を持ちかけるかもしれませんが、よろしくお願いします(笑)。

岩満

覚悟しておきます(笑)。ただ、我々が携わっている遊具や公共空間の提案って、常に他社との競争ですから、新しいことへの挑戦には貪欲でいたいと思っています。そして、お客様の期待に応えるだけじゃなく、ディテールまでこだわって、面白さや遊び心も込めたような製品づくりをこれからも心がけていきたいですね。

村田

誰にとっても優しいインクルーシブな遊具など、たくさんの人に親しまれるものを生み出していくには、そういう気持ちが大事ですよね。ナカムラの社是である「総ての快適環境の創造に貢献する(All Open Space)」という概念は、誰もが穏やかに過ごせる、楽しめるための空間をつくることですから、我々自身も楽しさをもって取り組んでいくのが一番だなと。

岩満

そのとおりだと思います。インクルーシブ、防災、安心・安全……自治体様に限らず、時代によって変化していく社会のニーズに対して、誠実に、前向きに良い提案のできるナカムラであり続けたいですね。

河川敷をもっと快適にする

フォールディング シェルター

休養施設や日陰が足りない

サッカー、野球、サイクリング、バーべキュー、散策…。河川敷はたくさんの人がそれぞれに楽しめる場所です。近年の健康志向で利用者は増える傾向にあり休養施設や日陰の整備が期待されています。

河川敷施設の課題を解消

河川敷施設は増水時に管理上支障がないよう、構造物は撤去、又は可倒式という基準があります。ナカムラは休養施設を転倒させる作業のわずらわしさを新しい発想で見直しました。

簡単、安全に転倒できる構造で災害時の対応力をアップ。フォールディングシェルターは、
河川敷管理者の負担を減らし、安心して設置できる水辺や河川敷専用の休養施設です。

  • 蓬莱橋想いと賑わいの広場
    (静岡県島田市 大井川河川敷)

  • 取手緑地運動公園
    (茨城県取手市利根川河川敷)

これまでの河川敷シェルター

  • 重機や専用工具が必要。
  • 屋根を支柱から離し下降させたり吊り上げたりする。
  • 支柱を一本ずつ基礎から外して倒す。
  • 作業には熟練者とある程度の時間が必要。
  • 重量物を降ろしたりするので危険が伴う。  etc

管理者の負担が大きい

フォールディングシェルター

  • 重機不要。
  • 屋根の下降も柱を基礎から外す作業も
    行わない。
  • 安全にだれもが楽に転倒作業できる。
  • 作業時間は2人で10分程度。

管理者の負担を軽減